横山 恭子(兵庫県 防災士)一般の避難訓練では、ケガや失敗を恐れて障害のある参加者を先に誘導してしまい、混乱した状況を体験することが出来ないため、「避難行動時に時間や支援を要する人のための防災訓練」を企画提案し、加古川市障害者自立支援協議会くらし専門部会のご協力のもと実施しました。参加者の皆様には初めての実動訓練ということもあり、技術を身につけるよりも沢山の「気付き」を感じてもらえるように、1つ1つの項目で考えていただける内容としました。
記
【日 時】2019年2月17日(日) 10時00分~13時00分
【場 所】加古川市総合福祉会館
【防災士】防災士12名(兵庫県8名、京都府1名、岡山県1名、山口県2名)
【内 容】シェイクアウト訓練、階段を使った避難訓練、避難所体験
<プログラム>
10:00 開会式
10:05 被災地での障がい者の状況説明
10:20 緊急地震速報、シェイクアウト、避難訓練
11:20 各ブース体験 及び 各自休憩
12:30 災害対応サポートハンドブック説明
12:50 まとめ
13:00 閉会
始めに「災害とは」の説明と被災地の現状をお話ししました。
被災地では福祉避難所が迅速に開設されないことや、逃げ遅れ、情報入手の難しさ、避難所での生活困難があることを過去の被災地の実例を交えて説明しました。
被災時のイメージを持ってもらった上で、次はシェイクアウトの練習。
重度障がい者の方は、いきなり頭に物を乗せられたり覆い被さると恐怖を感じますので、一旦練習。その際に「守っているあなたは大丈夫でしょうか?」と障がい者の頭を守っているご家族や支援者の皆様にも自身の安全確保も考えていただきました。
シェイクアウトの練習後は、実際に緊急地震速報を流して全員でシェイクアウト。
(地震の際、車椅子がどんな動きをするのか?ブレーキをかけていれば、車椅子が転倒したり、障がい者だけが振り落とされます。ブレーキをかけていない場合は、車椅子が部屋中を走り回ってしまいます。どちらにしても危険な状態ですので、それを理解した上で身を守る行動を周りがしなくてはいけません。)
数分後、揺れが収まったと想定して、会場から外へ出て階段を使った避難訓練を行いました。
事前調査では、参加者10組中、3組のご家族だけが体験を希望しておられましたが、導入の話やシェイクアウトをしていくうちに「やってみよう!」と勇気を出していただけ、10組全員が階段避難を体験しようと会場の外へ出ました。
まず、ここで気付きが1つ。
「みんなが一斉に外に出るとこれだけ混雑しますよね。しかもこれが100人規模のイベントだったら混雑はもっとひどくなり、自立歩行の人がどんどん先に逃げてしまい、支援の人手も減り取り残されます」
実際に車椅子を持ち上げるのに何人必要なのかも知らなかったご家族には不安な場面となりました。
そこから1組ずつ階段を降りましたが、車椅子と言っても皆それぞれ違います。
簡易式やバギータイプ、リクライニングタイプ、電動タイプなど、それぞれの車椅子の特徴と持ち上げていい場所、悪い場所を指導しながら全員が2階から1階まで無事に降りることができました。
「1組5分以上はかかってますよね。もし、途中で余震が起きたり、障害物があって通れない場合は、時間もかかるし降りれないかもしれません」
ご家族は、とても真剣に避難方法や救助支援者の重要性を知っていただけました。
避難訓練後は、会場へ戻って避難所体験。
障がい者の体調も考慮してここはフリータイムにしました。
避難所体験のブースをまわりながら、適宜おむつ交換や食事、水分補給、痰の吸引、態勢の移動など、無理なくこの時間を使っていただきました。
体温調節ができない方のために、室温高めの別室を用意したり、トイレ内での介助など細かい気配りも好評でした。
避難所体験では、最近の避難所に準備される一般的な物を用意し、使いづらさを体験したり、各家庭でこれから準備をしなければいけないものなどを考えていただきました。
<参加者の気付きを一部ご紹介>
【受付】
一般の用紙では備考欄が小さく、障がい者の沢山の情報を書ききれない。
書いている時間が長くなるので、事前にもらっておけば書いたものを持参するだけで済む。
【備蓄・非常持ち出し品】
自身の症状や障害にあった道具や必要なものが、一般の避難所には揃っていない。
障がい者一人一人、使うものも好みも違うため必ず自分で揃えて持っていかないと命に関わる。
必要な物が多すぎで、支援者1人では持ちきれない。必ず誰かの助けが必要。
【非常食】
アルファ化米やかんぱんが届いても、普段が流動食や注入食などで栄養を摂っている人は食べられない。
あるものをいかに工夫して使うかなど事前に練習したり食べさせてみないと不安。
【非常用トイレ】
車椅子では入れないし、便座が低く不安定なため使えない。
仮設トイレは階段があったり和式なので、車椅子でない障がい者も使いづらい。
【段ボールベッド】
車椅子の高さより低いため、移りづらい。
乗り降りの際に段ボールが動いてしまうため不安。
周りに柵がないので、目が離せない。
硬直した身体に合わせるため毛布やタオルなどのクッションが必要。
【非常電源】
1時間に10回程度、吸引をするため、10分の停電も命に関わる。
病院や支援者への連絡のため、携帯電話の充電は欠かせない。連絡手段がなくなると、不安になる。
避難時に電動車椅子の充電も必要。
一般の発電機は高すぎて個人では買えないけど、共同購入ならお互いに使えそう。
【避難所通路】
幅1mと2mの2つの通路を用意し、クランクも作り車椅子で通ってもらったところ、「簡易車椅子は1mでも通れたが、曲がり角が狭すぎて通れなかった」「1mだと、車椅子の横を人が通れない」「リクライニング式は2m幅でも曲がりづらい」
最後に、避難訓練や避難所体験での気づきを全員で共有したり、加古川健康福祉事務所から「災害対応サポートハンドブック」の配布と説明をするなど、自宅に帰ってからの振り返りがしやすいようまとめました。
進行をする上で、話し言葉は優しくゆっくりと。音に敏感で大きな音で発作が出る方などもおられるため、話し始めは静かに丁寧に。緊張が続くようなら全員で深呼吸するなど参加者のストレスを極力減らせるよう努力しました。
おかげで、一人も怪我や発作を起こすことなく無事に訓練を終えることができました。
主催者や指導者だけでなく、参加者の皆様の勇気があったからこそ達成できた訓練だと感じています。
実施にあたり、ご協力いただいた皆様に心から感謝致します。
防災訓練資料ほコチラからご覧ください